RakuChordの開発スタイル
本編のまえに、RakuChordの計画について少し紹介します。
RakuChordは僕が、「楽に演奏できる楽器」というコンセプトで10年ほど作り続けている電子楽器です。
販売は 2018年 にMakerFaireTokyo、通販は2019年に2回、そして今回です。
RakuChordはすでに十分に"演奏できる楽器"にはなっているものの、細かい改良点がまだたくさんある状態です。
基板の発注は最低単位があり、1つだけ、というわけにもいかないため、せっかく作った基板だし、ということでキットとして販売をしているというのが実情です。
RakuChordを買っていただくことで、僕が次のさらに進化したRakuChordや、ほかの何かを作り始めることが出来ます。
またRakuChordを他の人に見せびらかしていただくことで、さらに多くの方が、RakuChordに興味を持ってもらうことができ、このサイクルを回しやすくなります。
作りかけを売るってこと? と思われるかもしれませんが、RakuChordの開発はライフワークなので、あきらめない限り無限に改良できます。その時その時でベストを尽くしていますので、手を抜いているわけではないことをご承知おきください。
「同人ハードウェア方式」
RakuChordのような開発スタイルを勝手に「同人ハードウェア方式」と名付けてみました。
自分のような、趣味でものづくりを行っている人にとって、ある程度大規模に製品を作る手段として有名なものとして、「クラウドファンディング」があります。
よくRakuChordもクラウドファンディングしないのか?と聞かれることがあるのですが、「その必要がない」と返答しています。
クラウドファンディングが必要な状況とは何でしょう?
- なるべく多くの人に製品を使ってもらいたい
- 目的とする品質を実現するためには量産が不可避
- 量産のための頭金が必要
といった状況ではクラウドファンディングが有効なのではと考えます。
しかしRakuChordについて考えると、、
という感じで、あえてクラウドファンディングを行う必要性が無いのです。
しかし、10個単位で生産ができるとしても、イテレーションを回すにはそこそこのお金がかかります。まぁ趣味の開発なのでそこは自分のお小遣いで・・ということもで切るのですが、作るたびに赤字を垂れ流すというのもテンションが下がります。
MakerFaireTokyoなどでRakuChordを展示していると「自分も欲しい!」という奇特な方が存在することもわかりました。
そこでRakuChordは「同人ハードウェア方式」を採用して、持続可能な開発を進めることにしました。
この方式は、下図の企画、検証以降の「試作」フェーズで採用することが出来ます。
要は、実際に動作するプロトタイプを有料で販売し、それを基に試作フェーズを持続的に回す、という方式です。
今後のRakuChordが、どうなるかは、まだ僕もわかりません。
試作フェーズを数回回して、ある程度満足するものが出来たら、量産に挑戦するかもしれませんし、そのためにもう少しバッチサイズを大きくして試作フェーズを回す、ということもあるかもしれません。
まぁ、ともかく現在のRakuChordの開発は、試作段階のプロタイプを買っていただける奇特な方の存在により実現できているという状態なのです。
ここまでの販売で、RakuChordを購入いただいた方、宣伝いただいた方には、大変感謝しています。
まぁ、そういった方式で進めていることもあり、今回のRakuChord v1.4では、どのような改良をしたのか?ということを、公開することはとても重要なことなのです。
応援いただいている皆様に、RakuChordがどのように進化しているか、僕がどのように試行錯誤しているか?を紹介することで、このサイクルに皆さんを巻き込んでいきたいと考えているからです。
過去のRakuChordの記事紹介
この記事ではRakuChord v1.4 の開発の記録について紹介します。
それ以前のRakuChordの開発記録については、下記リンクを参照してください。
基板設計見直し
RakuChord v1.4では、基板の設計を見直しています。
変更点はイヤホン端子の出力を、アンプの後段にしたことです。
今までイヤホン端子からの出力は、マイコンからの信号をCRフィルタしたものがそのまま出力されていました。そのため、イヤホンで聞くなどは問題が無かったのですが、外部のスピーカなどにつないだ際には、ほかの機器に比べてオーディオのレベルが低くなってしまっていました。
そこで、今回はイヤホン端子の出力もアンプの後段に持ってくることで、この問題を解消しました。
しかし、この変更をすると、イヤホン使用時に音量が大きすぎるという問題が発生しました、そこで、音量調節用のボリュームも実装することにしました。
このボリュームはスピーカー出力の際も有効なので、静かな部屋で演奏するときにはボリュームを下げるといった操作ができるようになりました。
もう一つの変更点は「拡張端子」です。RakuChordは、Arduinoベースの楽器試作環境としても、利用することを想定しているので、拡張端子は必須です。
v1.3 までは、Arduino Nanoのピンをそのまま内側に伸ばして拡張端子、としていましたが、この端子が、使いにくい、、、ということで設計しなおすことにしました。
拡張端子は、RakuChordで使用していないArduinoのGPIOと、電源、シリアル、I2C、そしてアンプの入力、アンプの出力、を引き出しました。
これにより、例えば下記のような拡張ボードが作れます。
- シリアル、またはI2Cで接続できる外部音源
- 内蔵スピーカ以外のスピーカの搭載
- 内蔵アンプ以外のアンプの搭載
- I2Cやアナログ入力による入力インターフェース追加
- フルカラーLEDなど演奏に応じて光るような飾りの追加
- 外部機器とのテンポ同期信号のやり取り
まぁ、想定しているだけで、どれもまだ存在していませんが・・
筐体設計見直し
筐体設計も大きく見直しました。というかモデリングツールをOpenSCADからFreeCADに移行しました。
ツールを変更したのは「フィレットがやりにくい」という理由からです。
OpenSCADはプログラミングで3D図形を設計するという一風変わった3DCADです。Gitで差分管理をしてもわかりやすいということで、ここまで使用してきたのですが、仕上げの部分で、使いづらさが出てきました。
1.3までのRakuChordの筐体の底面の角は「角ばって」いました。これはOpenSCADでそのまま底面を引き延ばして、3D図形を作っていたためです。
この底面の角を丸くする、いわゆる「フィレット」を付けたいな、と思ったのですが、OpenSCADにはそれを実現する直感的な方法がありませんでした。
もちろん工夫してモデリングすれば期待する立体を得る方法はあるのですが、そのためにいろいろとパズル的に設計するのは、どうも遠回りな気がしてきました。
ということでFreeCADです。FreeCADはGUIの3DCADで、辺を選択しフィレットを付けることが出来ます。
ちょっと癖のあるソフトなので、使いこなすのに苦労しましたが、なんとか、今までのRakuChordの筐体と同程度の物にフィレットを付けたものを作ることが出来ました。
製造・発注
設計が終わったら次は製造です。
基板はいつも通りFusion PCBに発注しました。筐体本体は引き続き我が家の3Dプリンタで作成しました。
筐体のフロントパネル・スペーサーについては、今までは、フロントパネルは最寄りの工作室でレーザーカット、スペーサーは我が家の3Dプリンタで作成していたのですが、今回はelecrowにレーザーカットを発注してみました。
我が家の3Dプリンタで作っても良かったのですが、なるべく外注で作れるようにしていこうと考え、レーザーカットの発注にしました。
バグとその対策
さて、実装が完了し、手元にはRakuChord v1.4 のキットの材料がそろいました。
1台を組み立てつつ、マニュアルを作成します。
大体ここで、バグを発見するのですが・・今回もいくつか致命的なバグをやらかしました。
ボリュームとイヤホン端子の干渉
まず、組み立てていて気付いたのは、ボリュームとイヤホン端子が干渉してしまい、組付けられない!という致命的なミスです。
ボリュームは新しくつけたものなので、この周りでミスが起きるのはある程度想定していましたが、、これは・・何とも恥ずかしいミスです。
ここであきらめて、基板を捨てても良かったのですが、リカバリ方法を考えてみました。
まさかのボリュームの逆挿しです。配線が対称なボリュームであればこの技が使えます。(この時は対称だと思っていた・・・次項へ続く・・)
ボリュームを逆刺ししたことで、今度はスピーカーとボリュームが干渉するようになりましたが、筐体の隙間を少し開けることでこちらは比較的簡単に対応することが出来ました。
フットプリントに対して、逆向きにボリュームを実装するというワークアラウンドでこの問題は無事回避(したかのように見えました、、)。
ボリュームのフットプリントのミス
いきなりの伏線回収。このボリューム、5つの足があり、2連のボリュームを1つだけ使うような設計にしていたのですが、その5つの足の役割を間違えていました・・
おかげで、完璧とも思えた前述の「ボリュームの逆刺し」案も配線が意図しないものとなり、実現が難しいこととなりました・・
しかし!!まだあきらめません。このボリューム、2連のうち1連しか使用していないので、使っていないボリュームの足と配線をショートさせても特に問題はありません。
ということで、間違った配線のボリュームのピンを隣の正しい配線のピンとはんだボールを使いショートさせることで、意図した配線を実現しました。
これでボリューム周りのミスは無事回避出来ました!
(結果組み立て手順が難しくなっていきました・・)
電解コンデンサの配線間違い
これは、完全に配線の設計ミスです。イヤホン端子付近にあった電解コンデンサを、そのままにしていたのですが、イヤホン端子がアンプの後段に移動したおかげで、その電解コンデンサが、回路上意図しない位置に実装されてしまっていました。
これはもう、どうしようもない・・ と思いましたが、、
必殺リワーク!を使い、 基板上の配線をアクリルカッターで1本カットし、組み立て時に余った配線で、電解コンデンサの足を正しい端子につなげる、という手順とすることで、回避しました。
(結果、また組み立て手順が難しくなってしまいました・・)
マニュアルの写真ミス
これは、販売当時は気づいていなかったのですが、組み立てマニュアルの写真に2か所も間違いがありました。
これは、実際の組み立て時、上記のミスを修正したり、試行錯誤している中で撮った写真と取り違えてしまっていたのが原因の1つでした。
OLEDの裏面にゴムを貼る
これは、ミスではなく、未然にミスを防ぐ仕組みです。
OLEDを実装するとき、その裏面には配線が存在しており、OLEDを斜めに実装した場合、OLED裏面の金属部分と、裏面の配線が接触することにより、意図せず回路がショートすることが予想されました。
これを防ぐために、v1.3のころからOLEDの裏側に薄いゴム板を貼り付けることにしました。
これにより、組み立て時に発生しそうなミスを1つ減らすことが出来たと考えています。
まとめ
以上のような改良と、それによって発生した様々なバグを乗り越えて、RakuChord v1.4は完成しました。
次回 v1.5 を作る際は、少なくともこれらのバグを修正したものとなりそうです。
重ねてのお礼となりますが、ここまでの販売で、RakuChordを購入いただいた方、宣伝いただいた方には、大変感謝しています。皆さんのおかげで、RakuChordの機能が洗練され、さらに多くの方の手にRakuChordを届けることが出来ています。
引き続きどうぞよろしくお願いします。
宣伝
RakuChord v1.4 まだもうちょっと在庫が残っています。この記事を読んでみて、「面白い試みだな」「遊んでみたいな」と思った方!ぜひ購入してみてください!