事の始まり
この話はとある町工場の社長さんが、切削加工のテープカッターの図面を公開することから始まりました。
思いついたことがあって。
— おやっさん・町工場栗原精機の社長 (@krige09) 2021年4月15日
切削加工やってるひと、SNS使って繋げる、ちょっとした試み?
図面を公開してみるってだけなんですけど。
同じもの作るも、素材変えてみるも、形状アレンジしてみるもお好きに、何なら自社で商品化もどうぞ、か、うちが仕入れて販売もありかも。
乗ってくれるひといる? pic.twitter.com/MDalxnk5gT
あらためてご案内。下記のフォームに必要事項書いて送信!ってすると、ダウンロードのURLが表示されます。https://t.co/Yx1Nh0SAkN
— おやっさん・町工場栗原精機の社長 (@krige09) 2021年4月21日
よかったら、図面を見て、思い思いに、テープカッター、作ってみてください!
ひとことメッセージもぜひ!😉 https://t.co/zP39yslzOF
この図面はまぁ、結構単純なものでしたが、こうやってデジタルデータとして瞬時に設計を世の中に共有できるというのは、結構面白いと感じました。
もちろん3Dプリンタの世界ではThingiverseなどで日常的に行われているのですが、町工場からそういう動きが出てくるというのは非常に面白いと感じました。
ということで、自分も一つ乗ってみることにしました。
データ起こしと3Dプリント
公開されているのは単なるpdfによる図面であるため、これをCADデータに起こす必要があります。折角なので最近覚えたFreeCADを使ってこの図面をデータ化しました。
比較的単純な図面だったので、すぐにデータ化することが出来ました。金属加工装置が家にあればここからCAMを使って加工データを作り、機械に流せばよいのですが・・
我が家にはそんな装置はありません。
しかし、我が家には3Dプリンタがあります!
ということで、ひとまず何も考えずこのデータを3Dプリントしてみます。
データさえあればあとは簡単!
一応それっぽいものが作れましたが、肝心のセロハンテープの切断が出来ません。(おそらくマスキングテープのようなものであれば切断できるかもしれませんが、手元になかったので確認できず)もともと金属加工で作るためのデータであるため、プラスチックの3Dプリントで作っても、鋭利さが足りずセロハンテープが切断できないという事のようです。
3Dプリンタでテープカッターを作るための試行錯誤
ちょっと悔しいので、3Dプリンタでも作成できるテープカッターに改造できないかなと実験を始めました。
まずは、鋭利な形状を3Dプリンタで作る実験です。様々な向きで尖ったエッジを印刷し、テープがカットできるかを確認します。
予想はしていましたが、X,Y,Zのどの角度でプリントしても、まともな鋭角は得られませんでした。鋭さも問題ですが、細さゆえの脆さも大きな問題だと感じました。
ともかく3Dプリンタを使ってカッターナイフのような鋭利な形状を作る事は難しいようでした。
しかし、そもそもセロハンテープをカットするという目的においてカッターナイフのような薄い鋭利さが必要なのかどうか?という点が疑問になり、次に「ギザギザ」のモデルをいくつか印刷してみました。
うれしいことに、この形状は、セロハンテープを切断することが出来ました。
手元にあった市販のプラスチック製のテープカッターを観察したところ、これとよく似た形状であることに気付きました。
ここで気づいたのは、セロハンテープ切断に必要なのはカッターナイフのような「面」での鋭利さではなく、このギザギザの角のような「点」での鋭利さだという事です。
この「点」での鋭利さを利用してセロハンテープの一部に小さな穴をあけ、その穴から亀裂が広がることでセロハンテープを切断するのが、このカッターの仕組みのようだと発見しました。
まぁそんな先人の発見を追体験したところで、この「ギザギザ」を先程の図面に導入します。
ギザギザ部分がオーバーハングになるため、なるべく浅い角度になるようかなりギザギザの数を少なくしました。
先程の発見が正しければ、このギザギザの角が最悪1つでもあればテープは切断できるため、この程度のギザギザで十分だと考えました。
そしてできたものがこちら。
やった!この設計でテープを切断することが出来ました。
まぁ切断面はフニャフニャで、市販の物とは違いますが、まぁテープカッターとしては機能したのでヨシとしましょう。
得られた気づきとインダストリアルデザインの深い世界
ここで、このテープカッターの元の設計のトレードオフに気付きました。
普通のテープカッターは下の写真のようにテープを張っている箇所が長くなっています。一方このテープカッターにはこのような長い箇所がありません。
これにより今回作成したテープカッターは小型化という利点を獲得していますが、その一方でテープを引きはがす際にちょっと苦労が必要になっていることに気付きました。
また、今回のテープカッターは(おそらく)掘削機で加工しやすいよう、背面がテープカッター本体によりふさがれている(下図の黄色い部分)ため、左利きの人にはさらに使いにくくなっていることにも気づきました。
この点でも一般的な市販のテープカッターはよくできており、長くテープが伸びている箇所に両方から手を入れることが出来ます。
シンプルだと思っていたテープカッターですが、デザインの細部には様々な工夫が施されていることに気付きました。
いやぁ、インダストリアルデザインって奥が深いなぁ・・と感じました。
と、まぁここまでが自分のテープカッター作成記でした。
単に図面をデータ化して3Dプリンタで出力するだけかな、と思っていましたが、思った以上に長い旅になりました。おかげでインダストリアルデザインの深い世界の一部を垣間見ることが出来ました。
改めて、この図面を公開してくだったことに感謝します。
他の方々の作例紹介
さて、ここからはこの図面を基に作られた様々なテープカッターの事例を紹介します。
ひろさんの作例
テープカッター完成😆
— ひろ@技術部・設計 (@acuo_jp) 2021年4月19日
刃先もかろうじて再現出来ましたがテープの切れはイマイチでした(笑)
少しでも鋭利になるように積層ピッチを0.12のハイクオリティにしたほうが良かったかも。
今回はヤスリで鋭角にして誤魔化そう✨#Fusion360 #KP3S #Reprapper #PLA pic.twitter.com/rKWSAsOPD2
やすりで鋭利にすることでテープをカットできるように改造しています。
薄いダイヤモンドヤスリで刃を整形したら切れるようになった😆 pic.twitter.com/OHVRHbrf5X
— ひろ@技術部・設計 (@acuo_jp) 2021年4月19日
その後サランラップのカッターを取り付ける改造を行い、さらに使いやすくしています。
家庭用3Dプリンター(2万以下)で完成させました😁
— ひろ@技術部・設計 (@acuo_jp) 2021年4月21日
印刷時間は1時間ちょっと、FDMの弱点を克服するため #旭化成 さんのサランラップの空箱に付いてた刃を流用しました。
カッコ良く言うと Powered by #AsahiKASEI✨
プリンター:#KP3S & #kaika
フィラメント:#Reprapper #PLA+ https://t.co/1kftWkXodp pic.twitter.com/wpcy9PLTBj
李丞株さんの作例
FDMとインクジェット両方の方式で出力しました。光造形とSLSも出力中です。#栗原精機#テープカッター pic.twitter.com/TqOVt2UaUf
— 李丞株/Lee Seungjoo (@GGGGutenberg) 2021年4月20日
だいたい20分ほどで完成。
— 李丞株/Lee Seungjoo (@GGGGutenberg) 2021年4月18日
時間単価8000円なので、3000円から4000円くらいの見積もりになります!
←勝手に宣伝してごめんなさい
fusion360
ソリッドワークス
どちらも対応できます。
図面なし、モノありの場合は、測定器で測定できます。
STLデータの修整、調整も専用ソフトでデータ編集できます。 pic.twitter.com/DGEeMIgQQI
横浜市にある小さな町工場 高谷精密工業 さんの作例
独自のエンボス加工が素敵です。
自分の好きなデザインでもあるネイティブアメリカンのモチーフのサンフェイスを彫ってみました。
— 横浜市にある小さな町工場 高谷精密工業 (@tetsupon123) 2021年4月23日
なんだかインディアンジュエリーっぽい(笑)
奥さんにプレゼントします(^^) https://t.co/TQ6IYc8NN8 pic.twitter.com/xudDzOJD2o
㈲コバ 取締役副社長 さんの作例
独自のデザインに改造されており、なんと自分が気づいた問題点である両利き対応されています。
たのもー!テープカッターコンテスト会場はここでよろしいですか?
— ㈲コバ 取締役副社長 (@kobasenban) 2021年4月27日
川口市の栗原精機のテープカッターを模して。大変お世話になっているおやっさん。師匠、全くの別物作っちゃいました(笑)両側刃タイプ。#製造業#ものづくり#町工場#テープカッターコンテスト pic.twitter.com/vHA4M6ePUa
内田部長@水貝製作所 さんの作例
加工動画が見物です。
先日つくったテープカッターの動画をつくりました。#つくってばかり
— 内田部長@水貝製作所 (@sugai_no_uchida) 2021年5月1日
プロから見ると物足りないかもしれませんが、ものづくりってこんなんですって知ってもらえればと思います。
短いのでよろしければ見て下さい!
テープカッター製作 https://t.co/xxb9UcQ1N8 @YouTubeより pic.twitter.com/FUxWQ1PqSo
Labonos_PR さんの作例
機械が空いて、ようやくテープカッターの加工が出来た‼️ 新しいテンプレートを実験的に試してみたので、荒い部分もチラホラあります😅 が、仕上がってる面はまずまず👌 あとで、加工動画アップします‼️#Labonos #テープカッター pic.twitter.com/YwU5shBsoo
— Labonos_PR (@Labonos_PR) 2021年4月28日
【公式】AUTOLAB株式会社_藤原崇義 さんの作例
@krige09 さんのテープカッター
— 【公式】AUTOLAB株式会社_藤原崇義 (@autolab_jp) 2021年4月20日
光造形で印刷してみました
流石4k、テープカッターの刃までくっきり#anycubic#PhotonMonoX pic.twitter.com/fU6gGunH9Z
眞鍋玲 さんの作例
3Dプリンターですが作ってみましたー。PLAで積層ピッチ0.1。マステしか手元にありませんでしたがちゃんと切れました!#栗原精機#テープカッター https://t.co/jNKX8dUpws pic.twitter.com/IuFn9b7rkO
— 眞鍋玲 (@reimanabe) 2021年4月20日
皆さんすごいですね。