みんなでテープカッターを作る試みの紹介 #栗原精機 #テープカッター

事の始まり

この話はとある町工場の社長さんが、切削加工のテープカッターの図面公開することから始まりました。

 

 この図面はまぁ、結構単純なものでしたが、こうやってデジタルデータとして瞬時に設計を世の中に共有できるというのは、結構面白いと感じました。

 

もちろん3Dプリンタの世界ではThingiverseなどで日常的に行われているのですが、町工場からそういう動きが出てくるというのは非常に面白いと感じました。

 

ということで、自分も一つ乗ってみることにしました。

 

データ起こしと3Dプリント

公開されているのは単なるpdfによる図面であるため、これをCADデータに起こす必要があります。折角なので最近覚えたFreeCADを使ってこの図面をデータ化しました。

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比較的単純な図面だったので、すぐにデータ化することが出来ました。金属加工装置が家にあればここからCAMを使って加工データを作り、機械に流せばよいのですが・・

 

我が家にはそんな装置はありません。

 

しかし、我が家には3Dプリンタがあります!

inajob.hatenablog.jp

ということで、ひとまず何も考えずこのデータを3Dプリントしてみます。

データさえあればあとは簡単!

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一応それっぽいものが作れましたが、肝心のセロハンテープの切断が出来ません。(おそらくマスキングテープのようなものであれば切断できるかもしれませんが、手元になかったので確認できず)もともと金属加工で作るためのデータであるため、プラスチックの3Dプリントで作っても、鋭利さが足りずセロハンテープが切断できないという事のようです。

3Dプリンタでテープカッターを作るための試行錯誤

ちょっと悔しいので、3Dプリンタでも作成できるテープカッターに改造できないかなと実験を始めました。

 

まずは、鋭利な形状を3Dプリンタで作る実験です。様々な向きで尖ったエッジを印刷し、テープがカットできるかを確認します。

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予想はしていましたが、X,Y,Zのどの角度でプリントしても、まともな鋭角は得られませんでした。鋭さも問題ですが、細さゆえの脆さも大きな問題だと感じました。

 

ともかく3Dプリンタを使ってカッターナイフのような鋭利な形状を作る事は難しいようでした。

しかし、そもそもセロハンテープをカットするという目的においてカッターナイフのような薄い鋭利さが必要なのかどうか?という点が疑問になり、次に「ギザギザ」のモデルをいくつか印刷してみました。

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うれしいことに、この形状は、セロハンテープを切断することが出来ました。

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手元にあった市販のプラスチック製のテープカッターを観察したところ、これとよく似た形状であることに気付きました。

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ここで気づいたのは、セロハンテープ切断に必要なのはカッターナイフのような「面」での鋭利さではなく、このギザギザの角のような「点」での鋭利さだという事です。

この「点」での鋭利さを利用してセロハンテープの一部に小さな穴をあけ、その穴から亀裂が広がることでセロハンテープを切断するのが、このカッターの仕組みのようだと発見しました。

 

まぁそんな先人の発見を追体験したところで、この「ギザギザ」を先程の図面に導入します。

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ギザギザ部分がオーバーハングになるため、なるべく浅い角度になるようかなりギザギザの数を少なくしました。
先程の発見が正しければ、このギザギザの角が最悪1つでもあればテープは切断できるため、この程度のギザギザで十分だと考えました。

 

そしてできたものがこちら。

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やった!この設計でテープを切断することが出来ました。

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まぁ切断面はフニャフニャで、市販の物とは違いますが、まぁテープカッターとしては機能したのでヨシとしましょう。

 

得られた気づきとインダストリアルデザインの深い世界

 ここで、このテープカッターの元の設計のトレードオフに気付きました。

普通のテープカッターは下の写真のようにテープを張っている箇所が長くなっています。一方このテープカッターにはこのような長い箇所がありません。

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これにより今回作成したテープカッターは小型化という利点を獲得していますが、その一方でテープを引きはがす際にちょっと苦労が必要になっていることに気付きました。

また、今回のテープカッターは(おそらく)掘削機で加工しやすいよう、背面がテープカッター本体によりふさがれている(下図の黄色い部分)ため、左利きの人にはさらに使いにくくなっていることにも気づきました。

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この点でも一般的な市販のテープカッターはよくできており、長くテープが伸びている箇所に両方から手を入れることが出来ます。

シンプルだと思っていたテープカッターですが、デザインの細部には様々な工夫が施されていることに気付きました。

 

いやぁ、インダストリアルデザインって奥が深いなぁ・・と感じました。

 

と、まぁここまでが自分のテープカッター作成記でした。

単に図面をデータ化して3Dプリンタで出力するだけかな、と思っていましたが、思った以上に長い旅になりました。おかげでインダストリアルデザインの深い世界の一部を垣間見ることが出来ました。

 

改めて、この図面を公開してくだったことに感謝します。

 

他の方々の作例紹介

さて、ここからはこの図面を基に作られた様々なテープカッターの事例を紹介します。

 

ひろさんの作例

 やすりで鋭利にすることでテープをカットできるように改造しています。

 その後サランラップのカッターを取り付ける改造を行い、さらに使いやすくしています。

 

李丞株さんの作例

 

横浜市にある小さな町工場 高谷精密工業 さんの作例

 

独自のエンボス加工が素敵です。

 ㈲コバ 取締役副社長 さんの作例

 

独自のデザインに改造されており、なんと自分が気づいた問題点である両利き対応されています。

内田部長@水貝製作所 さんの作例

加工動画が見物です。

 Labonos_PR さんの作例

 【公式】AUTOLAB株式会社_藤原崇義 さんの作例

 眞鍋玲 さんの作例

 

 皆さんすごいですね。